好きです。

その言葉を何度耳にしたか分からない。

初めて耳にした時はあまりの現実味の無さに、幻聴かと疑っていたが

今となっては聞き慣れたと言ってもいいものだろう。

まぁ聞き慣れたと言うのはあくまで「音」としてなだけで、

心を乱すことは初めて言われた時となんら変わりない。

それが悔しいような。

けれど、どこか嬉しいような。

しかし自分でその言葉を口にすることは滅多に無い。

口にしたところで、相手はもうそのことが分かっているだろうし

それにましてや自分は女王の番犬だ。

恋愛ごとにうつつを抜かしている場合ではないだろう。

でも。

相手が自分の気持ちを分かっていると分かっていても、

本当に分かっているのだろうかと疑ってしまう気持ちもどこかにある。

いや、疑うというよりも･･･どこか捻くれたように。いじけたように。

僕がどれほどお前のことを考えているのか。

僕がどれほどお前のことを想っているのか。

どれほど、どれほど。

本当にこの気持ちは伝わっているのだろうか。

「セバスチャン」

だから珍しく。

「好きだ」

口にしてみた。

世界が甘色に染まる、三秒前。

次の日、予定を全てキャンセルしたのは言うまでも無い。

[11回]